最近、ビジネスシーンにおいて”SaaS”という言葉を耳にすることが多くなったのではないでしょうか。
しかし、SaaSと類似する言葉として”PaaS”、”IaaS”などといった言葉も存在し、その違いをはっきりと把握できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、SaaSの詳しい意味の解説はもちろん、近い言葉であるPaaS、IaaS、ASPとの違いについて解説します。
SaaSとは?
SaaS(サース)とは「Software as a Service」の略で、日本語では「サービスとしてのソフトウェア」という意味です。
インターネットを介してサービスとして利用できるようにしたソフトウェア、もしくはその提供形態のことを指します。クラウドコンピューティングという言葉が普及し、それにともないSaaSが幅広く使用されるようになりました。
従来、ソフトウェアといえば、パッケージ販売されたものをライセンス購入・ダウンロードして利用者側で自分のパソコンにインストールすることが一般的でした。
しかしSaaSでは、ソフトウェア自体はベンダー事業者側で稼働させ、クラウド上でソフトウェアをサービスとして提供する形をとるため、利用者側の環境でインストールやセットアップなどを行う必要ありません。
利用者からしてみればソフトウェアとして意識することなく、サービスを提供されているように見えることから「サービスとしてのソフトウェア」と言えるのでしょう。
クラウドに関する基礎知識
そもそも”クラウド”とはなんでしょうか。
クラウドとは、クラウドコンピューティングの略でインターネットを介してサービスを利用する形態のことをいい、そのようなサービスのことをクラウドサービスと言います。
語源は英語の雲(Cloud)からきており、インターネットが雲で表現されることが由来です。
最近では、クラウドという言葉の定義があいまいに使われることが多いのですが、ここではクラウドサービス・クラウドコンピューティングを包括して”クラウド”とします。
クラウドとよく対比して使われる言葉に、”オンプレミス”という言葉がありますが、オンプレミスでは自分でデータセンターなどに物理サーバーを設置して、プライベートな環境を構築する必要があります。
インターネットが普及する前はオンプレミスが一般的でした。
クラウドとSaaSの違いが分かりづらいかもしれませんが、SaaSのようにソフトウェアを提供するだけでなく、インターネットを介して受けられるサービス全般のことをクラウドと認識しておきましょう。
SaaSを使うメリット
SaaSを使うメリットはさまざまあります。それぞれ解説していきましょう。
SaaSではサブスクリプション型の料金体系をとっていることが多く、使用した期間やデータ量に応じた金額で済み、買い切りよりも比較的安価になることが多いです。
また、ソフトウェアはベンダー事業者の環境で管理されているため、システムの管理コストも抑えることができます。さらに、ソフトウェアのアップデートも基本的にはベンダー事業者で定期的に実施されるため、最新のソフトウェアを使用することができます。
インターネットを介してサービスが提供されているため、インターネットの接続環境さえあればパソコンやタブレット・スマートフォンなどのさまざまなデバイスから利用することが可能です。
デメリットとしては、基本的にパッケージ化されたソフトウェアを使用するというコンセプトなので、利用者側でのカスタマイズに限界があるということです。
そのため利用者側の事業で特殊な業務仕様等が存在する場合に、ソフトウェアを業務に対応させることが難しい場合があります。
また、ソフトウェアはベンダー事業者で管理しているため、ベンダー事業者の環境に障害が発生した場合にサービスを利用できなくなります。
もちろんインターネットに接続できる環境であることが前提なので、ネットワーク障害時にサービスを利用できない点にも注意してください。
SaaSの例
身近なもので、SaaSの例をあげるとクラウドストレージのGoogleドライブやiCloud・Dorpboxなどがあります。
また、企業勤めをしている方にとってはMicrosoft Office 365や名刺管理のSansanなどがイメージしやすいのではないのでしょうか。
これらのサービスは、すべてインターネットを介して提供されており、パソコンやスマートフォン上にデータを保持する必要がなくインターネット上で完結できます。
混同されやすい言葉
SaaSと混同されやすい言葉としてPaaSやIaaSといった言葉があります。
それぞれの特徴と違いについて解説します。
PaaS
PaaS(パース)とは「Platform as a Service」の略で、日本語では「サービスとしてのプラットフォーム」という意味です。
PaaSでは、ソフトウェアを実行するための環境(プラットフォーム)をインターネットを介して提供する形態をとります。
一方、アプリケーションの開発自体は利用者自身で行うため、SaaSよりも自由なカスタマイズが可能です。
また、開発に必要なインフラ部分はすでに用意されているため、開発に専念することができるプラットフォームとなります。
こちらもSaaSと同じようにサブスクリプション型の料金体系が一般的なため、アプリケーションの開発の際に必要な機能に応じて従量課金されることが多いです。
PaaSの代表的なサービスとしてはMicrosoft AzureやGoogle App Engineなどが挙げられます。
IaaS
IaaS(イァース、アイアース)とは「Infrastructure as a Service」の略で、日本語では「サービスとしてのインフラ」という意味です。
IaaSでは仮装マシンやOS、そしてネットワークなどのインフラそのものを提供する形態をとります。
そのため、利用者側で環境構築も含めて開発を行うため、インフラに関する専門的な知識が必要となります。
SaaSやPaaSと同じようにサブスクリプション型の料金体系が一般的で、稼働させる期間や利用レベルに応じて従量課金されることが多いです。
IaaSの最大のメリットとしては、柔軟な”カスタマイズ性”で、イチから自分で環境を用意するため、システムのアーキテクチャ部分から構築することが可能です。
システムの要求からサービスレベル・セキュリティレベルにあったシステム開発を行うことができます。
デメリットはメリットと相反することになりますが、システムをイチから作成する必要があるため、専門スキルが必要であることを含めて開発コストが高くなる傾向にあります。
IaaSの代表的なサービスとしてはAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)やGoogle Compute Engine、ニフティクラウドなどが挙げられます。
SaaS、PaaS、IaaS、それぞれの特徴まとめ
クラウドにはSaaS・Paas・IaaSと提供形態に応じて受けられるサービスが異なります。
それではそれぞれどのように使い分ければ良いのでしょうか。簡単な例をもとに確認していきましょう。
SaaS
SaaSはすでにでき上がったサービスを使用することができるため、導入までの時間が短く済みます。
専門のスキルも必要なく、すぐにサービスを使うことができるため導入におけるコストもそこまでかからないことが魅力的です。
注意点としては、ソフトウェア自体のカスタマイズ性はそこまで高くないため「こんな機能が欲しい!」といった場合に技術的に対応できないケースがあります。
こういったことにならないように、あらかじめ使用したい機能を明確にした上でベンダー事業者に確認しておけば問題ないでしょう。
PaaS
PaaSはSaaSとIaaSの中間に位置しており、「インフラの設定までは行いたくないけど、アプリケーションは自分たちで開発したい」といった場合に有効です。
実際、SaaSで提供されているサービスが自分たちの必要な機能を備えていなかったり、自社ブランドのシステムに仕上げたいというニーズがあったりする場合があるため、アプリケーションの部分は自分たちで作りたいというケースは多々あります。
また、システムのインフラの管理はベンダー事業者に任せることができるので、インフラの管理コストを削減することができます。
IaaS
IaaSについてはシステム開発自体はすべて自分たちで開発することになります。
アプリケーションの開発だけでなく、ネットワークの構成や特定のOSでの環境構築などを行う必要があるためカスタマイズ性は非常に高いですが、インフラ専門のスキルが必要となります。
アプリケーションの開発には非機能要件というものがありますが、機能だけでなくさまざまな指標があります。
たとえばロードバランサーを用いてサーバーへの負荷を軽くし、どれくらいの負荷に耐えられるか、どのような構成にしたいかなどの要望やデータベースをマスター/スレーブ構成にすることで障害発生時にデータの完全性を担保しなければならないといったことがあります。
こういったシステムの要件はさまざまですが、それぞれどういった構成にするのかをカスタマイズする場合はIaaSを選択することが望ましいでしょう。
さて、SaaS・PaaS・IaaSについてそれぞれの特徴を理解できたでしょうか。
これらを使い分けるには「どういった機能を使用したいか」が重要となってきます。
たとえばSaaSを使用する場合、現時点で機能は足りているが、将来的に拡張する可能性がある場合、別システムを用意して連携させる必要があるため、余計にコストがかかってしまうなんてこともあります。
こういったこともあるので、それぞれの特徴を理解した上で使い分けるようにしましょう。
SaaSとASP(Application Service Provider)との違い
ASPとは?
ASP(エーエスピー)と略す言葉は現代では複数存在しますが、ここではSaaSと意味が近いところにある「ASP=Application Service Provider」について紹介します。
このASPは、業務用アプリケーションソフトの機能をネットワーク経由で顧客に提供する事業者のこと、または提供しているサービスのことを意味します。
ASPという言葉は、インターネットの普及にともなって1990年代に普及しました。ASPが提供するサービスはブラウザなどを用いてASPの管理するアプリケーションソフトにインターネット経由でアクセスして使用します。
SaaSとASPの違い
SaaSは「インターネットを介してソフトウェアを利用する仕組み」そのものを差し、ASPは「インターネットを介してソフトウェアを提供する事業者」を差しています。
つまり厳密には、SaaSは「提供形態」、ASPは「提供事業者」と、異なるものを表す言葉なのです。
しかし現在、日本ではSaaSとASPの意味が混同して使われることも多くあります。
ASPという言葉は、ソフトウェアを提供する事業者のことも指しますし、提供しているサービス全体のことを指す場合もあります。
同じようにSaaSについても、サービスの提供形態として使われることもあれば、提供しているサービスそのもののことを指すように使われる場合もあります。
どちらもサービスのことを指すという性質がありますので、どちらを使っても間違いではない場合があるのも事実です。
ただしASPは、SaaSに比べるとやや古い概念となりますので、どちらかと言えば「SaaS」のほうをメインで使っていけばよいのではないかと思います。
時代背景としては、ASPのほうが先発で、ASPが持つ欠点を補う形で登場した概念がSaaSです。
また、SaaSとASPは明確に使い分けがされていない現状ではありますが、PaaSやIaaSとの使い分けとしてSaaSを用いるケースが増えているように感じます。
他にもASPと略す言葉がある
最近だと広告業界でAffiliate Service Provider(アフィリエイトサービスプロバイダー)=ASPという言葉も使われています。
意味は「アフィリエイトサービスを提供する事業者」のことで、アフィリエイトの認知が広まった現代では頻繁に使われる言葉です。
こちらもASPと略すので、今後は「アフィリエイト」の方のASPが主流となり、混同を防ぐために「Application Service Provider」としてASPと使う場面は、意図的に減っていくのではないかと思われます。
まとめ
SaaSについての解説をしてきましたが理解は深まったでしょうか。
SaaSという言葉が飛び交うようになった昨今、ビジネスシーンにおいて適切に使い分けられるようにしておきましょう。