最近、ベンチャー企業やSaaS業界を中心に、『カスタマーサクセス』という言葉をよく耳にするようになりました。
同じような言葉に『カスタマーサポート』がありますが、もともと使われていた「カスタマーサポート」と「カスタマーサクセス」とは目的が少し異なります。
しかし、両者の違いがいまいちよく理解できない、という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、カスタマーサクセスが広まった背景やカスタマーサクセスの役割などについて説明します。
カスタマーサクセスを実現させるポイントや役立つツールもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
カスタマーサクセスとは?
『カスタマーサクセス』とは、直訳すると「顧客の成功」と言う意味になります。
自社の利益や成長のために顧客を支援するのではなく、「顧客の成功の実現」を第一の目的とする考え方です。
では、「カスタマーサクセス」と「カスタマーサポート」は、一体どのような点が異なるのでしょうか。
3つの観点から見ていきましょう。
「問題解決」ではなく「成功」がゴール
これまで自社の製品やサービス購入後のフォローとしては、「カスタマーサポート」という考え方が一般的でした。
顧客から問い合わせや要望があった際に対応するという行動で、サービス提供側が受け身となります。
つまり、カスタマーサポートは顧客からの問い合わせやクレームがあってはじめてアクションが始まり、「不満を解消したり問題を収束させたりすること」がゴールとなります。
一方、カスタマーサクセスのアクション起点はサービス提供側の企業であり、「積極的に働きかけ、顧客を成功へと導くこと」がゴールとなります。
顧客からのアクションを待つのではなく、顧客の成果を最大限引き出すために能動的なアプローチを行うのです。
自社製品やサービスを使い、顧客を業績アップや目標達成へと導くために積極的に支援する。
これが、カスタマーサクセスの大きな役割です。
顧客と「伴走」する姿勢
従来のBtoBの営業プロセスは、製品の購入や契約後にカスタマーサポートに引き継ぐことが一般的でしたが、カスタマーサクセスは契約前から関わることも大きな違いの一つです。
契約前には、顧客の課題を理解した上で、自社製品をより活用して課題を解決できるようなプロセスの設計・提案を行います。
そして契約後も、設計通りに課題解決が実現できるようサポートすることが求められます。
長期間に渡り顧客に寄り添い伴走することで、顧客満足度を高く維持することがカスタマーサクセスに期待される重要なポイントです。
サブスクリプション型のビジネスモデルに合致した考えかた
カスタマーサクセスがビジネスにおいて注目されるようになった背景には、サブスクリプション型のビジネスモデルが増えてきたことが大きな要因としてあげられます。
クラウドの発展により、SaaS系のサービスが急速に世の中に広がってきました。
SaaS系のサービスは、利用期間に応じて課金するサブスクリプション型のビジネスモデルのため、「いかに契約してもらえるか」より「いかに長く使ってもらえるか」が重要です。
既存顧客の解約率を下げると同時に、追加の契約を生み出しLTV最大化することが、ビジネスにおける重要な指標になってきているのです。
カスタマーサクセス実現のために必要なこと
カスタマーサクセス活動を推進するためには、どんなポイントに注意すれば良いのでしょうか。いくつかの観点からご説明していきます。
顧客の成功の定義
カスタマーサクセスで重要なのは、顧客にとっての成功は何か、自社の製品を通じてどのような状態を実現できていることが理想なのかを具体的に定義できているかです。
特にSaaS系のサービスの場合は、製品を上手く使いこなせなければ次の契約につなげることは難しくなります。そうならないために、顧客と成功の定義をしっかり擦り合せることが重要です。
オンボーディング
オンボーディングとは、ユーザーの定着や利用率を上げるための仕組みやプロセス、特に新規ユーザーにサービスに親しんでもらうプロセスを指します。
これがカスタマーサクセスを実現するために非常に大切です。
ユーザーの立場から考えても多様なサービスの中からより便利なものを選びたいと考えています。
その中で、利用を開始したばかりのユーザーに「使いづらい」と判断されてしまうと継続の可能性は低くなります。
初回利用時にいかに、「このまま使いたい」と思ってもらえる体験を提供できるか。スムーズにサービスに慣れ、成果を実感してもらえるか。
オンボーディングプロセスを上手に設計し、製品価値を理解してもらって利用率を高めることがカスタマーサクセスにとって重要な要因になります。
顧客の課題の本質を見極める
カスタマーサクセスの基本は、顧客の課題の根本解決により成功体験を作り出すことです。
そのためには「どんな目的で」「何を達成するために」自社のサービスを導入したいのか、相手のビジネスを理解し、本質的な課題や目標を的確につかむことが重要です。
顧客の思う課題が本当に正しいのか、第三者としての客観的な目線も必要になります。
顧客の根本的な課題を見極め、自社の製品を活用することでの成功イメージを強く持ってもらうことが重要です。
満足度改善のためのデータ蓄積・活用
カスタマーサクセスで重視されるのは、顧客の満足度を向上させ、サービスを長期的に利用してもらうことです。
そのためには、顧客の満足度にまつわるデータを収集・分析することが重要です。
その中で重要な指標の一つとなるのが『ヘルススコア』です。
ヘルススコアとは、「顧客が健全にサービスを利用しているか」という顧客の“健康状態”を判断する数値であり、これを定期的に把握することで、支援の優先度を決めることができます。
また、このヘルススコアや過去の解約時期・契約期間などから、サービスの課題を探り改善することで解約を未然に防ぐこともできます。
カスタマーサクセスをより効果的に行うには、顧客の利用状況を把握できるヘルススコアやデータの活用が必要不可欠です。
全社で取り組む
カスタマーサクセスを実現させるために大切なのは、会社全体に「カスタマーサクセス」の概念を浸透させ、カスタマーサクセスの考え方に基づいた活動に方向性を変えていくことです。
カスタマーサクセスが導入され、顧客のLTVを最大化する目標設定がなされると、各部署の目標や施策も変化します。
例えば、開発部門では顧客からのフィードバックに基づいた機能開発が、営業部門では新規開拓より既存顧客の契約の更新率が重視されるようになります。
そして、それに応じた組織づくりやインセンティブの設計なども必要になってくるのです。
部署間で方向性のズレを引き起こさないためにも、組織のトップがカスタマーサクセスについて十分に理解し、率先して推進する姿勢が求められます。
そして何より、全社規模で顧客を第一に考える文化を醸成することが、カスタマーサクセスの実現に大切なのです。
重要な指標「LTV」「顧客単価」「解約率」
カスタマーサクセス活動において重要な指標となるのが、「LTV」「顧客単価」「解約率」です。
「LTV(ライフタイムバリュー)」とは顧客生涯価値のことで、1人(1社)の顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のことを指します。
カスタマーサクセスにおいて、このLTVを最大化させることが何より重要です。
「解約率(チャーンレート)」は、その名の通り解約件数であり、サブスクリプションモデルの場合、顧客の成功をサポートし、サービスの継続を維持できるかがとても重要です。
「顧客単価」は、特にロイヤリティの高い既存顧客は、アップセルやクロスセルの提案もしやすく、顧客単価の引き上げも見込みやすくなります。
解約率を低く維持しながら課題を見極めた提案を行い、収益の最大化をはかることも重要です。
これらの内容を効率的に取り組む工夫
カスタマーサクセスは、顧客を成功へと導くため能動的に顧客とコミュニケーションをとる必要があります。
その際の顧客へのアプローチ法は大きく3つに分類されます。
・ハイタッチ
・ロータッチ
・テックタッチ
これら3種類を使い分けながら、顧客の成功と自社の収益とが両立するようバランスを取ることが大切です。
【ハイタッチ】
基本的には顧客価値が高いユーザー、特に契約初期の段階にある顧客のうち、契約数や取引額の大きい顧客に対し行うサポートで、
・訪問での導入支援
・定例会議での現状確認や社内勉強会の開催
・製品の使用頻度が下がった場合の支援
などが挙げられます。
【ロータッチ】
サービスの契約数がハイタッチ顧客ほどは高くなく、ハイタッチほどの上質なサポートはできないけれどある程度しっかり対応したい、という顧客層に使われ、
・ユーザーを集めてのワークショップ
・他社活用事例を伝える機会の創出(社外勉強会の開催など)
などが挙げられます。
【テックタッチ】
顧客へのサポートがテクノロジーベースで、直接顧客に対応することなくカスタマーサクセスを行うことで、
・メールやチャットを使った問い合わせ対応
・動画などのマニュアルサイトの充実、チュートリアルの作成
・オンラインコミュニティの作成
などが挙げられます。
すべての顧客に個別で対応するのは工数的にも難しい場合が多いため、テックタッチのコンテンツをいかに充実させるかがカスタマーサクセスにおいて重要になります。
また、問い合わせなくても自身で問題解決ができる、コミュニティで誰かに相談できるなどの満足体験をユーザーに提供することも可能です。
カスタマーサクセス活動は多岐に渡ります。
業務を効率的に進めることも重要ですので、上記のような顧客対応の方法やツールを使って効率化を図りましょう。
カスタマーサクセス実現に役立つSaaSツール
カスタマーサクセス活動を実施するために役立つツールを4つご紹介します。
カスタマーサクセスの導入を検討している方は、参考にしてみて下さい。
総合カスタマーサクセスマネジメント
HiCustomer
顧客のスコアリング、コミュニケーション管理、利用状況分析ができるカスタマーサクセスの管理プラットフォーム。
- ヘルススコアで対応すべき顧客を明確化
「ヘルススコア」と呼ばれる顧客の健康状態を表す数値を算出・分析し、プロダクト活用フェーズごとに対応すべき顧客を明確にすることができます。 - 顧客の利用状況を時系列で分析
プロダクトの利用状況、コミュニケーション履歴、売上、契約情報などの顧客情報を「顧客ごと」に集約し時系列でのデータ管理が可能。カスタマーサクセスの打ち手がどのように結果に結びついたかを分析できます。 - 顧客に対して行うべきアクションを自動生成
顧客の利用データから退会やアップセル兆候を自動で検知し、CS担当に警告と対処法の提案を通知します。既存顧客による売上最大化の機会を支援します。
pottos
ユーザーの行動を可視化・管理・分析できるカスタマーサクセス支援プラットフォーム。
- 「契約後」に焦点をあてたユーザー管理
導入サポートの進捗状況、契約更新履歴やMRR(月間経常収益)の推移、問い合わせ情報など、サービス利用中のユーザーの状況把握に適した管理が可能となります。 - ユーザーの行動把握
ユーザーのWebサービス上での行動を収集。利用率が下がっていないか、機能を使いこなせているか等を把握し、優先して対応すべきユーザーを特定します。 - 効率的なプロセス・タスク管理
ユーザー定着に向けたサクセスプロセスを、収益規模などに応じて定型化・自動化します。ユーザーの状況に合わせて、自動でタスクを生成するなど、業務を効率化します。 - 一人ひとりに合った自動ユーザーサポート
ユーザーの行動に合わせてWeb画面上で自動的にサポートポップアップを表示。閲覧ページに対応した操作ガイドや別機能の紹介など、ユーザーごとに適した活用を促進させます。
サポートデスクの効率化
re:lation
企業が行う問い合わせ対応業務を効率化するメール共有管理ツール。
- マルチチャネルを一括管理
メール、LINE、Twitter、チャット、電話対応の記録など、 様々な形式の問い合わせを一括管理。 問い合わせの状態をステータス管理できるので、対応漏れがなくなります。 - 送信時の作業負担を軽減するメール管理
メールの送信予約や添付ファイルのZIP暗号化などが簡単に行え、メール送信の作業時間の削減、作業ミスを防止できます。 - 顧客管理・情報共有
過去の問い合わせ履歴を時系列表示できるタイムライン機能や、顧客情報をアドレス帳に一括管理、社内のみで表示されるメッセージのコメント情報の入力・共有などが可能です。 - PDCAを回して更なる効率化
受信から対応完了までの時間集計、送信・受信の件数集計、ラベル別集計をメッセージごと、担当者ごとにグラフで表示、分析が可能。業務改善・マーケティングにも活用できます。
backlog
開発からマーケティング、人事・総務まで様々な職種で使われているプロジェクト管理ツール。
- チームのコラボレーションを促進
キャラクターアイコンやスターによる「いいね」機能、作業やプロジェクトの進捗状況についてコメントを送り合う機能、課題に関するコメントや更新内容のメンバーへの通知など、チームメンバーのコラボレーションを促す機能を搭載。 - プロジェクトの進捗を見える化
プロジェクト計画をガントチャートで可視化します。メンバーの進捗を把握することで、作業の遅延にいち早く気づくことができます。 - 担当者・期限を明確にしてチームのタスクを管理
チームメンバーの作業を一箇所にまとめることで担当者や完了期限が明確になり、作業が進めやすくなります。課題の期限と作業担当者を設定して、優先順位をチームで話し合い、作業内容の更新をBacklog内とメールで通知できます。 - SVNとGitを使ってチームのソースコードを管理
バージョン管理システムSVNやGitを使ってソースコードを管理。チームメンバーのコミット履歴を確認してコードレビューをしましょう。メンバーからのプルリクエストにコメントもできます。
まとめ
カスタマーサクセスの考え方は、SaaSの分野から広まってきましたが、今後はさまざまな業界・企業でも導入されていくと予想されます。
カスタマーサクセス活動の実現により、顧客満足の向上や能率的な企業の売上UPにも大きく影響しますので、ぜひこの機会にカスタマーサクセスの考え方や重要なポイントをチェックしてみて下さいね。